良い豆について、もう少し狭めてみましょう。ほとんど海外から輸入されるコーヒーの生豆は、生産国ごとに定められた規格で格付けされています。国によっては規格がなかったり格付け内容に違いがあるものの、国際的な商品取引に基づいているため、与えられるグレードには一定の信頼性があります。ただ、買い付ける側の判断材料のひとつにしかすぎません。
環境保全といった社会性や、食品安全性の観点から与えられる認証もあります。フェアトレード、レインフォレストアライアンス、グッドインサイド、バードフレンドリー、日本の有機など。これらの認証は、消費側中心の立場から、やや生産側に歩み寄った品質格付けといえそうです。
もうひとつ、消費側で区別しているグレートがあります。おおざっぱに「コマーシャルコーヒー」「レギュラーコーヒー」「スペシャルティコーヒー」の3つに分けられ、目的と商品価値を端的に表わしています。
まずコマーシャルコーヒーは、インスタントコーヒーや缶コーヒーといった、主に加工食品のベースに使用されるグレードの豆です。次にレギュラーコーヒーは、喫茶店やレストランで使われたり、コーヒー豆販売の主軸商品となり、ここにはプレミアムコーヒーと呼ばれる上質な豆も含まれてきます。最後にスペシャルティコーヒーは、特化したカフェで使われたり、一般に販売される豆としては最上級のグレードになります。際立った風味を特徴とするため、各国の格付けではなくスペシャルティコーヒー協会独自の評価基準が採用されています。感覚的かつ主観的ながら判定項目は多岐に渡っており、審査は厳格です。需要と供給に成り立つ、公正な格付けと言えるのではないでしょうか。
どれほど品質の高い豆であっても、小売店から消費者に渡るまでの過程で、残念ながら質が低下することは珍しくありません。販売計画の悪さから鮮度の落ちた豆を売ったり、持ち前の香味を台無しにするような焙煎が行われたり。しかし、多くの自家焙煎店は豆の性格を引き出そうと努力しています。焙煎にはポリシーやプロファイルがあり、同じ豆でも焙煎士によって別物のように焼きあがります。どれが正解でどれが究極なのかは誰にも分かりません。決めるのはそれぞれ本人です。良い豆とは必ずしも品質の高さだけを指していませんし、国家や専門家といった他者が決めるグレードではなく、自分で美味しいと感じられる豆かどうかに尽きるでしょう。だからこそ、審美眼を養う「豆探し」が求められるのです。