上質なillyの豆も、ひとたび缶を開ければ粉なら3日、豆なら3週間が限度でしょう。それを過ぎれば、illyならではの豊かな香味は天高く登り去っています。コーヒーは焙煎直後から経時変化し、劣化の一途をたどります。ことに焙煎から3,4日ほどは盛んに炭酸ガスを放出し、コーヒーの要である香気成分まで一緒に連れ出してしまうのです。
冷蔵や冷凍は劣化を抑える保存方法として有効ですが、扱いを間違えば逆にコーヒーの劣化を加速させます。コーヒー豆の水分値は、生豆で9~13%、焙煎豆になると5%以下です。焙煎済みのコーヒー豆は多孔質の繊維で構成される、いわば脱臭剤に使う活性炭のようなものです。ラフに保存すれば、空気中に含まれる60~90%の湿度や20%の酸素、さらには周囲に漂う臭気まで吸着します。繊維の閉じた豆の状態であればまだ許容されますが、すでに挽いてある粉の場合、恐ろしい早さで劣化するのです。
冷蔵、特に冷凍では、外気に触れたとたん空気中に含まれる湿度を結露させます。これを避けるために、ビニール袋で小分けして空気を抜き(可能なら1回分づつ)、光を通さない紙袋に入れ、それをジップロックなりタッパーウエアなりで密閉するのが理想です。飲むときには使う分だけ出し、密閉した状態のまま外気温まで戻してから使います。気体の出入りを防ぐガスバリア性の高い容器を使うことによって、香気成分の放出はもちろん、結露による吸湿や臭いの吸着は最小限に抑えられるでしょう。