あのレモンジュースのような生々しい香りを、そのままお客様に伝えることが果して良いことなのかどうか。これ見よがしの厚化粧を見せつけるみたいで、私はちょっとばかりためらいを感じてしまう。~自分のお店でゲイシャを出す際は、~以下中略
これはフジヤマ芸者ではなくコーヒーの話で、カフェバッハ店主・田口護さんが著した本「スペシャルティコーヒー大全」からの部分引用です。ゲイシャとはアラビカ種の原種で、数年前から最も高い評価を得ているうえに収穫量が極端に少ないため、オークションで高値の奪い合い状態となっています。日本スペシャルティコーヒー協会のイベント(SCAJ2010)で飲み歩いたところ、パナマのエスメラルダ・ゲイシャは群を抜いていました。信じられないフルーティさと、華やかで、かつ豊かな香味です。特徴を活かすため浅めに焙煎するそうで、苦味より酸味が立つ傾向にあります。酸味といっても劣化した酸っぱさではなく、果物のように甘味をともなった爽やかな酸味です。とはいえ、酸っぱいコーヒーの苦手な人が多い日本では、商品となると大いなる賭けなのでしょう。
世界中のスペシャルティコーヒー協会が展開する「フルーティ」路線は、もちろん日本にも浸透しつつあります。予想だにしなかった昨今のコーヒー観とは対象的に、お客さん第一主義で考える店主ならではの深イイため息だと感じました。