生産国の最新事情②

 

「コーヒーハンターが見た コーヒー生産国の最新事情」 2012年8月22日
株式会社Mi Cafeto 代表取締役 川島良彰氏

ルワンダコーヒーの将来

最近ではルワンダのコーヒーが注目されるようになりました。ルワンダといえば、フツ族とツチ族がいがみあって部族間抗争を起こし、1994年の3ヶ月間で80万人が虐殺されたといわれています。じつのところ、フツ族とツチ族はまったく同じ人たちで、同じ言葉、同じ文化を持つ同じ民族です。それを植民地の宗主国だったベルギーが、自分たちの植民地政策をしやすくするために勝手にツチ族とフツ族とに分け、互いが対立を起こす構図を作った結果起きた不幸な事件でした。
ジェトロの依頼でアドバイザーをすることになり、今年2月にルワンダを調査してきました。恐ろしい国なんじゃないかと戦々恐々として向かったわけですが、いざ行ってみると、たぶんアフリカで一番平和な国ではないかと感じました。非常に治安が良く、真夜中でもまったく問題なく道を歩けるし、人間も朗らかでとても親切です。ルワンダはフツ族ツチ族という言葉さえも憲法で抹消させ、人々は一丸となって国作りに励んでいるんです。

皆さんは「ディアスポラ」って聞いたことがあるでしょうか? ディアスポラとは、比較的余裕のある人たちがヨーロッパやアメリカで教育を受けて成長した人をさします。大虐殺の時代に家族で国外へ逃げたディアスポラたちを、ルワンダ政府は重要な役職と高い給料で積極的に登用し、新しい考え方やシステム作りを進めています。
ディアスポラを海外から呼び戻すのはルワンダに限ったことではなく、アフリカ全体にいえることです。例えばエチオピアでは農薬問題以降、コーヒーの流通をかなり変えているんですが、ここを司っているのがエチオピアのディアスポラの人たちです。知識を持った外国人を招聘して国作りをするのではなく、外国で教育を受けた自国民を要職に登用する政策を進めて成功しています。
ルワンダでもすでにディアスポラの人たちによって効果が出ているんですが、ひとつ危惧しているのは、もう2,3年経つと必ず起きる汚職です。海外から企業が入ってきてディアスポラにお金を渡し、国がぐちゃぐちゃになってしまう可能性が高いです。そうならないと良いなと思っています。

ちょっとコーヒーと関係ない話になりますが、ルワンダはものすごくきれいな国でした。風景ではなく、ゴミがまったく落ちていなかったんです。どこに行っても、1度もゴミを見ませんでした。本当に驚きまして、ルワンダの人に何故この国はゴミが落ちていないんだと聞いたところ、「ウムガンダ」というシステムがあるからだと分かりました。これは毎月最終土曜日の朝8時から11時まで、国民は義務として皆外へ出てゴミ拾いをしなければなりません。ゴミ拾いをしなければいけないから、ゴミそのものを捨てないわけです。これは凄いシステムだなと感心しました。
ルワンダ空港で入国する際税関に止められまして、成田で買ったお土産の袋を出せといわれました。また何かたかられて盗られちゃうのかなと思いながら差し出したところ、袋から中身を全部出してぼくに返してよこしたんです。袋がないと持っていけないじゃないかと抗議したら、この国ではプラスチック、ビニールの袋を輸入もできないし持ち込むことも禁止なのだと説明されました。つまりゴミ処理のためで、ゴミの原因となるプラスチックやビニールの袋が存在しない国なんですね。

ルワンダは貧しい国ですが、人口1千万人のうち4%の40万人がコーヒー産業に従事していて、国の重要な収入源になっています。生産量は約1万9千トン、世界では28番目ぐらいの産地です。ケニア、タンザニアの西に位置するルワンダとブルンジはともに小さな国で、両方ともベルギーの植民地でした。
ルワンダコーヒーの問題として、栽培技術の遅れがあげられます。これは植民地時代に白人のオーナーたちがやっていたとおり、そのまま意味も分からずに継承しているためです。天日での干し方にしても精選方法にしても、見よう見まねで覚えたことを、なぜそうしなければいけないかを教えられていないうちに、自分たちがやりやすいよう勝手に変更していってしまいました。ですから技術の遅れというより、正しい技術を持っていません。もうひとつ大きな問題は、ルワンダ人は紅茶ばかり飲んでいて、コーヒーを飲まないんです。あろうことか、コーヒーの生産者たちまで「コーヒー飲んだことない」って言うんですよ。
>会場・驚き
紅茶のプランテーションについては、それは素晴らしく整備されていて、管理もいき届いていました。しかし、ルワンダの人たちにはコーヒーを飲む習慣がないんですね。やっぱりこれは、ルワンダコーヒーにとって困った問題です。

あと、非常に深刻な品質問題として、「ポテト臭」があります。これは生のジャガイモを割ったような臭いがするもので、もう本当に強烈な臭いです。こういう豆は焙煎前や後に抜けばいいんですが、数粒入ってしばえばとんでもない臭いがするわけですね。この原因はじつはまだ100%解明されていなくて、たぶんアンテスティア(川島氏twitterより)という害虫ではないかと予想されています。果実の上から縦に穴を開けて潜るCBBと違って、アンテスティアは横に穴を開けます。実の中まで潜りませんが、かじった痕についた菌、もしくはバクテリアが引き起こしている臭いではないかと考えられています。

残る問題としてロジスティック(物流システム全般)があります。内陸国ですから輸出するのが大変で、今のところタンザニアのタンガかダルエスサラーム、どちらかの港を使うしかありません。数千キロの距離がありますから、管理せずに長い時間かけて運送すると品質低下を招きます。
現地でロジスティックを調べたのですが、驚いたことにルワンダの人はリーファーコンテナという言葉さえ知りませんでした。16~18℃の低温に管理したリーファーコンテナで1月半から2ヶ月かけて日本に届くのと、ドライコンテナのように温度管理をせず乾燥した状態で届くのでは、品質、味がまったく違います。ドライコンテナとの差額は、キロあたりわずか10~15円しか差がありません。コーヒーは利幅の薄い商売ですから、商社ではこのわずかな差も高いと判断してドライコンテナを活用されているわけです。ルワンダでは美味しいコーヒーがとれていますから、せめて良いコーヒーだけでもリーファーコンテナで運ぶ必要があると思っています。

ルワンダはコーヒー栽培としての土壌も良く、自然環境として非常に適したところです。治安もいいですし、ルワンダ人は勤勉な人たちです。アメリカや中国などの先進国が支援をしていて、インフラ整備が進んで国内の交通網も良くなっています。この辺もじつは裏があって、ジャングルの奥にはダイヤモンドの鉱脈があるからだったりします(笑)。まあそうしたことがあっても、ルワンダコーヒーはとても将来性が高いと考えています。
理想の実現には先ほどあげたいくつかの問題をクリアする必要があり、ジェトロとジャイカをくっつけてJJプロジェクトを立ち上げ、ルワンダコーヒーの品質と生産性を向上すべく日本政府はかなりサポートしてゆくことになります。時間はかかると思いますが、いつの日にか、数年後には皆さんにルワンダの素晴らしく美味しいコーヒーを飲んでいただけるようになったらと願っています。
>会場・大きな拍手

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こうやって文章にすると、面白みに欠ける平板な話になっていて残念です。。実際はもっと笑いあり驚きありで、感心し、息をのむほど充実した講演でした。おぼろげながらも現地の空気を感じられるほど、疑似体験できたんです。このコーヒーサロンをはじめとした、各所で行われている講演がYouTubeなどで公開されたらと、切に願ってしまいます。いつか欧米のように講義が公開され、学習の役に立つ日がやってくるといいです。

 

株式会社 Mi Cafeto
http://www.mi-cafeto.com/