シングルオリジンには果物や花、風景といった ” 自然 ” を感じるのに対し、ロブがブレンドされたエスプレッソからは人間の築いた文化が薫ってくる気がします。そう感じたとき、お店の人にロブが入っているか尋ねることがあります。失礼となる質問かもしれませんが、確かめたくてつい。
ロブスタは単体だと香りに特有の癖があって、味には奥行きがなく平板さは否めません。ICO(国際コーヒー機関)が分類した4グループも、ロブの商品価値の低さを表しているように見えます。しかし、オーセンティックな味わいのエスプレッソにはロブがブレンドされていることが多く、コストを抑えられるだけでなく、カップ全体に絶妙なインパクトと厚みをもたらしています。
ミルクとの相性も大変良く、欧米でエスプレッソベースのラテやカプチーノが普及したり、日本にコーヒー牛乳が浸透したことも、ロブは一役買ってきたのではないでしょうか。
ロブスタは抽出できる成分、体積あたりの収率が高く、結果的にコストを下げられるため、市場価格が高騰しても加工飲料などの商業分野では欠かせない品種です。栽培の分野でも活躍しています。土壌に線虫の多い産地では、病害虫に強いカネフォラ種を台木に使い、そこへアラビカ種を接木することで収穫量を落さない対策をとっているそうです。また、本来なら交雑しないロブスタとアラビカが、奇跡的に自然交配を起こしたとされるハイブリッド・ティモール、これにアラビカ種を人口交配し、病気に強く生産性の高い新たな品種を生み出しているとのこと。すごい!
品種改良や収量のコントロールは、人間のエゴを見るようで何となくいい気持ちがしませんでした。でも、目線を逆転すると、コーヒーノキはヒトを利用して種の繁栄に成功しつつあるように見えます。ヒト以外の生き物も受粉を手伝ったり未消化の種子をばら撒くものの、範囲はごく限られています。その点ヒトは活動が広範囲で、種子を採りあげる見返りとして世界中に伝播してきました。おまけに、絶滅しないよう献身的に保全し続けてくれるのですから。進化の過程で眺めると、現時点でコーヒーノキにとって最も効率のいい共生動物はヒトなんじゃないでしょうか。これまたエゴっぽいですが、今はコーヒーとヒトの蜜月期に思えます。
人々を夢中にさせているアラビカコーヒーは、カネフォラの存在なしではとうてい考えられません。甚大な被害をもたらしているサビ病を始め、様々な難関も人の助けを得て乗り越えるはずです。
謎めいた植物の魅力にハマってしまいました。それも今はロブの魅力に。