コーヒーの劣化

コーヒーを劣化させる要因は「水分」「酸素」「光」「温度」です。このうち意外に重要視されないのは光による劣化でしょうか。日光や蛍光灯の紫外線は、豆に含まれる脂質を酸化変質させます。この変質の指標となる過酸化物価は、蛍光灯下で1ヶ月保存した場合、暗所に保存した場合の2倍近い値になると報告されています。いずれの保存でも、ガスバリア性を高く保つだけでなく、光にさらさないよう気を配りたいものです。

美味しいコーヒーを求める者にとって保存とは、長持ちさせるというより劣化をいかに食い止めるかを意味します。コーヒーは生鮮食品と表現されることもあり、食中毒を起こす可能性がある生の食品ほどではありませんが、鮮度が命なのは紛れもない事実です。劣化を食い止め、新鮮なうちに楽しみたいものです。

劣化を左右する最大の要因は、「豆」か「粉」かといったコーヒーの状態です。仮に豆1粒の表面積が切手1枚ほどとしましょう。細かく挽いた粉では、豆1粒あたりテニスコート半面ほどの繊維表面積に広がります。豆の状態では繊維を閉じて保護していますから、よほど長時間かけて高温で煮出さないと、コーヒーとして飲めるような濃さに達しません。グラインダーやミルで豆を粉砕する目的は、表面積を大きくして容易に抽出できるよう促すためです。
豆を挽くと素晴らしい香りが辺りに充満します。多孔質が剥き出しになって表面積の広がった粉は、香気成分を放出しつつ刻一刻と劣化の一途をたどります。ですから、粉の状態で保存するのは間違っています。ミルやグラインダーを使い、飲む直前に粉砕するのが美味しいコーヒーへの出発点です。