生産国の最新事情①

 

「コーヒーハンターが見た コーヒー生産国の最新事情」 2012年8月22日
株式会社Mi Cafeto 代表取締役 川島良彰氏

危機を迎えるコナコーヒー

伝統的にコナ栽培に関わってきた日系人をはじめとした生産者が廃業するとともに、教育熱心な彼らの子弟は本土へ流出し、後継者が減りつつあります。彼らに代わる新しい生産者や精選業者は、アメリカ本土から利益目当てで移り住む新参が多くなりました。これらのNew Growerと呼ばれる人々は金儲けが主な関心で、品質向上やコナの将来はあまり考えず、他の生産者との協調性を重んじません。また、ハワイ諸島ではコナ以外、ほぼすべて機械収穫です。コナは地形上、機械が入らず人の手で摘むために収穫コストが高く、収穫期に必要となる労働者の確保自体が難しくなっており、人的な問題として深刻になっています。
温暖化によって開花時期がずれて早まり、収穫も早まって旱魃の影響を受けることになりました。このような気候変動による減産と品質低下も危機のひとつです。
さらにカウコーヒーの台頭も脅威となっています。かつてカウはコナの偽物として格安で裏取引されていましたが、現在では栽培場所が海岸線の低地から標高の高い山へと移り、品質も格段に良くなりました。実際に2011年の全米バリスタチャンピオンが、国内と世界大会の両方でカウコーヒーを採用し、カウの品質の高さを立証しています。
(※注: Honolulu Coffee Company 所属の Pete Licata氏は、カウにRusty’s Hawaiian、コナにWai’ono Meadows の豆を使用し、2011年WBC準優勝を果たした)

線虫の仲間は土壌中に莫大な数いて、顕微鏡でないと見つけられないような小さな虫です。コーヒーの木に害をもたらす線虫は、根に取り付いて樹木の栄養分を奪います。根はしだいに瘤だらけとなり、コーヒーの木は養分を吸収できなくなり、みるみるうちに木を枯らしてしまう恐ろしい害虫です。線虫用の農薬は強い劇薬のため、現在では禁止されていて使えません。対策はもっぱら接ぎ木手法となっています。
ちなみに中米、ことにグアテマラのアンティグア地区は土壌に線虫が多く、ほとんどのコーヒーの木は台木(下部に用いる植物体)にカネフォラ種(ロブスタ)を使い、上部にアラビカ種を接木しています。地面に近い部分に線があるので、見れば一目で分かります。
一方、ハワイの線虫は他国の産地に比べて強く、カネフォラ種の台木では太刀打ちできず、対策としてカネフォラ種より線虫に強いリベリカ種を台木に使っています。しかし、リベリカ種は発芽率が低いうえに発芽に時間がかかり、苗作りと接木自体にものすごいコストがかかります。ただでさえ生産コストの高いコナコーヒーなのに、こうした余分な出費が大変な負担になっています。
ところで、接木のコーヒーは不味いのでは?味がおかしくならないのか?といった質問がよくのぼります。接木では上の部分、コナの場合ティピカの味になりますので、心配はいりません。ただ、成木の若返りのためにカットバックするとき、接木より上でカットしないとリベリカになっちゃいます。
>会場・笑い

線虫の被害がどんどん増えているところへもってきて、これまでハワイにはいなかったCBBがついに入ってきました。2011、2012年は旱魃で30%減産したうえに、収穫されたうち22%はCBBの被害に遭い、生豆が穴だらけになって売りものにならなくなっています。
CBBCoffee Berry Borerはアフリカで見つかった小さな甲虫です。コーヒーの果実が熟す前の青いうちに食い破って種子の中に入り込み、メスが卵を産みつけます。孵化した幼虫は生豆を食いつくし、成長するとメスだけが外へ出て行って別の実にいるオスと交尾します。実の中に入るために農薬は効果が望めず、連鎖的に増え続けるという非常にやっかいな害虫です。
中南米など他の国では天敵を使って対応していますが、ハワイではやっていません。その理由として、これらの天敵がCBBだけにアタックするとは限らず、無計画に天敵を広めてしまうと他の昆虫を殺して生態系そのものを変えてしまう可能性が考えられるからです。
唯一の対策として、エルサルバドル国立コーヒー研究所で開発した罠を使っています。メチルアルコールとエチルアルコールの混合液から揮発される匂いが、メスのCBBにはコーヒーの青い実と感じるらしく、この罠へ引き寄せたところで、石鹸水を満たした籠に滑り落して溺死させる、という仕組みです。
コナではこのようなバイオロジカルなコントロールを行っていますが、すべての農園で対策が徹底しているわけではありません。隣の畑が対策をしていなければ効果にはやはり限界があって、駆除には至らないのが実情です。コナコーヒーは人的な問題、気候変動の問題、カウコーヒーの台頭の他、これら害虫の脅威にさらされている危機的状況です。

川島氏は「今のままいってしまうと、最悪の場合コナコーヒーは観光農園でしか生き残れないのではないか? もっと真摯にコナコーヒーの将来に向き合う必要がある」とくくり、「久しぶりにネガティブな気持ちに陥ってしまった」と付け加えていました。コーヒーハンターとして有名な方ですが、限りなく生産者に近い、コーヒー愛に満ちた人なんだなと実感です。ふと宮沢賢治を連想しました。もちろん周知のとおり、病弱な印象とは正反対のタフガイですけれど。
それと、コーヒーの3大原種であるリベリカ種は商業的に流通していないと習いました。まさかこんな形で大活躍していたとは知らず、なんだかうれしくなりました。CBBの罠に混合アルコールを使うという話も面白かったです。メスを惹きつけるホルモンの構造に似ているのかもしれません。

続いて、川島氏のお話は、ルワンダへと移ります >>>