カッピングという試飲方法は、コーヒー豆が持つ長所短所はもちろん、香味の経時変化や温度変化まですべて暴き出します。あくまでコーヒーを鑑定するための手法ですから、当然美味しく飲む方法ではありません。では最も美味しい飲み方は?という疑問に対する「論語」のようなツイートを再度転載します。
@T_ESPRESSO TSUBASA ESPRESSO
プレス抽出 + ペーパーフィルター(熱湯で念入りにリンス)。微粉がこんなにたくさん。ハンドドリップに不慣れな自分には、抽出がブレにくいやり方。フレーバーを十分に引き出しつつクリーンで、毎回同じ仕上がり。
@T_ESPRESSO TSUBASA ESPRESSO
(中略)プレスしないで、カッピングのように抽出して、上澄みを紙フィルターで濾してます。
文章が簡潔すぎて、すべて理解できる人はそれほど多くないでしょう。たったこれだけの文の中に、抽出に関して要となるキーワードが少なくとも4つ隠れています。
1. 抽出方法は香味を引き出す「カッピング」で、プレスのガラス容器を使う
2. 舌触りを良くするため、ペーパーフィルターで濾過する
3. 抽出を安定させるため、プランジャーを使わずに上澄みを静かに注ぐ
4. ペーパーフィルターは熱湯で念入りにリンスし、不要成分を洗浄する
1のカッピングで抽出する理由は冒頭に述べたとおりです。プレスのガラス容器は、細長い筒状なため上澄みの確保にうってつけです。2はコーヒー粉の細かい粒子を濾過することで触感の不快さを取り除き、味覚やマウスフィールを邪魔しません。3も重要です。プランジャーを使わないため、厳格に洗浄しない限りとれない変質した油脂成分の混入を避けられます(こいつの臭さとしつこさには腹が立つ)。シンプルにするほど欠点の入り込む余地がないわけです。また、湯で膨らんだ粉に僅かでも圧力をかけないため、抽出変動が生じません。これはカッピングと同じく、誰が淹れても抽出ブレを起こしにくい重要な要素です。最後の4に関するショッキングな事実について補足してみます。
ドリッパーに漂白ペーパーフィルターだけをセットし、ドリップ時と同じ95℃の熱湯を3分かけて150cc濾過する試験をしたところ、カップに落ちた一見澄んだ湯の不味さに驚きました。立ちのぼる湯気はケミカルな臭いがします。こんな湯でコーヒーを飲んでいたのかとショックで座り込んでいたのですが、ふと家にあるTDSメーターを思い出しました。これは熱帯魚水槽などの水質を計るもので、微弱電流によって不純物量を1ppm単位で確かめられます。ちなみに家の水道水が68ppm、逆浸透圧ではない浄水器なので飲用の濾過水を沸かした湯も同じ68ppm、漂白ペーパーを濾した湯は70ppmでした。写真のように温度が高いと数値が増えることを確認したので、3つの検体が26℃に安定してから計った結果です。TDSメーターがちゃちなのか誤差の範囲なのかは不明ですが、漂白されたペーパーフィルターで濾過すると、元の湯よりわずかに不純物は増えています。いずれにしても味の不味さと臭いは、製造の際に使われた薬品が流れ出てるのでは?と考えてしまいます。仮に無害な物質であったとしても、コーヒーの香味を損なっていることに変わりありません。無漂白(みさらし)の不味さに気がついていたのに、この白い漂白ペーパーフィルターについてまったく疑わなかったとは。。
生産者がどんな苦労して育て、輸送や管理に気を使い、焙煎士が懸命にローストポイントを模索して焼き上げても、最後の最後で大きな減点です。 不味い紙を洗浄しないでドリップした日には、COEの運命はあまりに悲しすぎです。@T_ESPRESSOさんのツイートから得られた教訓によって、これらの悲しみとおさらばする階段を1段のぼることができました。この抽出方法は、昨日よりも美味しいコーヒーをもたらせてくれています。美味しくて、つい笑ってしまいます。
まとめに、「豆を挽くために」や「グラインダーは重鎮」で書いたとおり、微粉はやっかいものです。まったく雑味を持たない豆であっても、なるべく粒度を揃えて抽出過多を避けるよう、茶漉し網を使って微粉を排除しました。ちなみに写真は、デロンギKG-364Jで中挽きした14gのMocha Matari Felixです。このうち微粉は2.2gありました。また、ペーパーも濾過に不要な部分を切り落とすよう追加。学んだ論語を意訳してみます。
微粉を除いた粉を使い、カッピング方法で抽出する。濾過に必要な最小面積に切り落とし、熱湯で念入りに洗浄した酸素漂白ペーパーフィルターに、上澄みを静かに注いでカップへ濾過する。この方法は「淹れ手による変動の少ない安定抽出」「フレーバーを十分に引き出す」「舌触りの良いクリーンさ」を持ったコーヒー抽出液が得られる。